石川県立看護大学 平成28年度タイ国立チェンマイ大学看護研修 2016年度大学間連携共同教育推進事業 「ヒューマンヘルスケア人材育成プロジェクト」 -海外における地域保健医療体制を学ぶ- タイ王国 チェンマイ大学看護学部研修報告 Faculty of Nursing, Chiang Mai University, Chiang Mai, 本学は、文部科学省の「大学間連携共同教育推進事業」として『学都いしかわ?課題解決型グローカル人材育成システムの構築』の一つ、「ヒューマンヘルスケア人材育成プロジェクト」事業に主体的に取り組んできました。その一環として2016年8月27日~9月11日の16日間、国立チェンマイ大学看護学部での看護研修を行いました。 チェンマイ大学正門前で この研修の目的は、政治や文化、社会経済の異なる国での保健医療システムを知り、地域における住民の暮らしや健康課題への対処方法について学ぶことにより視野を広げ、学生の将来の活動において様々な地域住民への健康づくりにアプローチできる、グローカルな人材を育成することであり、このプログラムに参加することにより期待される成果としてアジア諸外国における保健医療システムを学び、わが国の少子高齢化等様々な課題に対して新たな視野で解決策を考える力が育成されることでした。そのためにチェンマイ大学看護学部で用意して下さった研修プログラムにより、様々な体験を行うことが出来ました。 【参加者】 石川県立看護大学 2年生2名、3年生4名、4年生1名、教員2名 金沢大学 3年生2名 (合計11名) 【主な研修内容】 1.講義 看護研修修了書授与式 副学部長とともに タイの看護教育 タイのヘルスケアシステムと保健師の役割 外傷ケア チェンマイ地域の訪問看護 タイの高齢者看護 小児期、青年期におけるHIV(エイズ)予防 タイの伝統的補完代替医療とその知恵 タイの感染症予防 2.訪問見学と実習 救急外来看護師長さんと 学部学生と基礎看護学演習に参加 チェンマイ大学病院と地域の病院を訪問見学 (救急外来?外科病棟) 地域での訪問看護システムの紹介と実際の見学 (在宅での訪問看護の実際) 保健センター、コミュニティーケアユニットの訪問見学 高齢者サロンの見学 タイマッサージスクールの見学と体験 チェンマイ大学附属伝統的補完代替医療センター見学 「こども保護運営委員会」「青少年の性の問題対策委員会(ルアヌア地域コミュニティーセンター)」参加者との意見交換 経鼻経管栄養法のチューブ挿入の技術演習参加 研修のまとめ発表(英語でのプレゼンテーション、質疑応答) 3.文化交流 新入生歓迎登山の様子 列先頭の綺麗に着飾った集団は学部の先輩学生たちです。この列の後に新入生が続いて、片道14kmの山頂を目指します。 チェンマイ大、日本から琉球大保健医療学部、金沢大、石川看護大学生による、国、地域、大学の紹介 チェンマイ大伝統舞踊クラブの舞踊、琉球大民族舞踊、金大、石川看護大書道教室 チェンマイの町と周辺の視察(チェンマイ大国際看護学部学生案内による) チェンマイ大学新入生歓迎登山の参加見学 【研修での学び】(一部抜粋) (岩佐 栞 2年生) 今回の研修に参加して、タイの医療や保健、看護について学び、理解を深めることが出来た。また、日本と比較する際に1年次に参加した韓国研修で得たことも含めて考察することが出来た。私が強く感じたことは、話しで聞いただけではなく、実際にその場面で目で見て体験することの大切さだ。タイに行く前と後での自分のタイに対する印象が大きく変わった。実際にその地を歩き、空気を感じなければわからないことが沢山ある。日本の看護学生、後輩に、聞いただけで知ったつもりになっているということは、まだ見ぬ学びを失うことになると伝えたい。また、人生のうちで今しかできなことは積極的に挑戦していくことも大切だ。この時、事前に学習し最低限の知識をつけておくか否かで得られるものは変わってくると考える。この姿勢を今後も忘れないで生かしていきたい。 (若狭 淳美 3年生) 特に印象に残ったプログラムは、トラウマケアである、タイの死因の第二位に事故が挙げられ、タイにおいてトラウマケアは重要な役割があるといことが分かった。タイでは交通手段としてバイクが多く使用されているが、ヘルメットをしていない人が多い。また、三人乗りなど何人も乗り合わせていることも多い。さらに車間距離も短く、これらが事故件数を多くしている原因だと思った。タイ人は事故にあった時に、自分が悪かったと思うのではなくて、運が悪かったと思うそうで、こういった仏教国ならではの考え方も事故が減らない原因であると考えた。タイでは事故が起こると救急車が10分以内に到着するというが、これは日本に比べると遅い数字である。これには、事故が起こる場所が遠いこと、交通渋滞が関係していると学ぶことができた。また、地域の自治体ではそもそも救急車がないことも理由として挙げられると学んだ。 (新田 明里 3年生) 私が特に印象に残ったプログラムの一つに高齢者クラブでの参加見学がある。高齢者クラブは設立当時の登録者数が5人だったにもかかわらず、現在では2000人まで増えたのを聞いて、どうしてそのような大きな規模にまで拡大することができたのか疑問に思った。理由としては、高齢者クラブに参加した人が自分の住む地域の人に、このような活動があると口伝えに広まったことであり、特に参加者を集めるために行ったことはない、とのことだった。口コミで活動が広まっても参加意欲がなければ参加者数も増えないと思うので、タイの高齢者は健康意識がとても高いと思った。参加者の健康意識が高いだけでなく、活動内容が慢性病の対策についての講義や、タイの伝統的な踊り、弁護士による法律についての話、大学の医学部による健康チェックなど多種にわたり、高齢者が飽きないように、楽しませるような工夫がされていて、参考にしたいと思った。私も月に1回健康教室を行っているが、参加者のためになるものを、というモットーが似ていると感じた。 (山本 奈津美 3年生) この研修全体を通して、国を超えて同世代の学生と交流することの楽しさを感じることが出来た。英語がたとえ流暢ではなくても十分に意思疎通は可能であると感じた。しかし、最初のうちは戸惑いや緊張からなかなか自分から話すことを恐れてしまっていた。自分の言いたいこと、伝えたいことは全部英語で言うしかない環境に置かれたおかげで、自分の英語力を向上させることができたと感じているし、英語で話すということへの戸惑いもなくなった。もっと英語力を身につけてもっと会話ができるようになりたい、と思うようにもなった。また、タイの人たちにしっかり説明できるくらいに日本について知っておくべきだと思った。チェンマイ大学の学生たちがいきいきとした大学生活を送っているのをみたり話したりしていく中で、自分ももっと楽しく看護を学びたい、という気持ちになることができた。日本では経験できないことを16日間で数えきれないくらいさせてもらえたことに感謝したいし、この経験を忘れずにこれからの自信につなげていきたいと思う。 研修報告(引率教員:金谷、清水) チェンマイ大学看護学部の担当教員?スタッフとの相談しながら、研修プログラムの構築を行っていった結果、今回の研修目的にかなう講義内容、視察先を選定してもらうことができた。学生は研修カリキュラムが進むごとに日々、日本とタイの相違点や共通点を考え、地域や家族による看護における看護職の関わりの重要性に気づいていた。近代医療だけでなく伝統的医療、山間部での現況に触れる機会も得られ、看護の基礎や根本的な考え方を改めて学べていた。 タイでの看護教育は欧米からの直輸入であることもあり、同じアジア地域にありながら日本の看護とは違った部分も見られた。しかし、そこには看護の原点とも言うべき、人対人の関わり、家族単位のケアを大切にする姿勢があり、日本がかつて大切にしていた、しかし今は見失いがちな、先進的な医療機器に頼らない、人対人の看護があった。地域での医療システムは日本に比べ、決して進んでいるとは言えず、今まさに少子高齢者社会を迎えようとしているタイでは、日本がかつて背負ってきた様々な健康問題を抱えている。学生はタイでの社会的、健康問題を学びながら日本の現状がどうであるのか、どう対応してきたのかを振返る良い機会となったと思う。このように、学生は国際的な健康問題への視野を広げる学びが得られ、個々の看護観や将来活動を考える研修となったといえる。 補完代替医療センターの見学