石川県立看護大学 平成26年度卒業式式辞(2015年3月13日) 2015年3月13日 皆さん、ご卒業、ご修了おめでとうございます。 本日ここに、ご列席下さった大勢の皆様の前で卒業証書?学位記をお渡しできて大変嬉しく思っております。これまでの皆さんの勉学や研究の努力に敬意を表し、学士課程、博士前期課程、博士後期課程を無事修了されたことに篤くお慶びを申し上げます。 また、お忙しいところ駆けつけてくださいましたご来賓の皆様、石川県公立大学法人の皆様、そしてご列席くださったご家族?関係者の皆様に御礼申し上げます。 まだ歴史の浅い本学ですが、学士課程の卒業生は1056名、博士前期課程修了生は79名、博士後期課程修了生は11名になりました。 本日ご卒業、ご修了の皆さんは、これからの道は別々になりますが、それぞれ期すことをしっかりと胸に秘め、夢と希望、そして覚悟をお持ちのようです。よき看護職、よき看護研究者、よき看護教員として、または看護資格を生かすそのほかの道を切り開く者として活躍してくださると期待しています。皆様への教職員一同の夢も一緒に乗せて、遠くまで連れて行っていただきたいと念じております。 皆さんは、これから医療を始めとしたさまざまな場で、知識?技術を生かせたことへの満足感、使命を果たせた達成感やその過程におけるいろいろな人との心の交流への感激を味わうことと思います。ひとつでも多くそのような経験を積み重ねて、その後への財産にし、自信につなげていただきたいと思っています。 しかし、皆さんはその逆の経験にも出会うことと思います。皆さんが自分をマイナスに評価せざるを得ない場面に出会った時、この大学は、皆さんが他人のせいにしないで自分で受け止める勇気を持たせてあげられただろうか、いったん受けとめた上でそこから立ち直れるだけの強さを育ててあげられただろうか、今日のこの日を迎えて思い返しています。これからの皆さんがこの答えを出して下さると思っていますが、正直に申せば、心配なところでもあります。 そこでひとつ言葉を紹介したします。プロ野球監督であった野村克也氏の言葉です。野村氏は、“「失敗」と書いて「成長」と読む”のだそうです。腑に落ちる言葉ではないでしょうか。もし皆さんが失敗することがあったなら、この言葉を思い出し、失敗を糧にしていただきたいのです。しかし、「失敗」を他人のせいにしてしまったら「成長」はありません。他人のせいにしてしまったら「失敗」した自分の核心を保護し、温存してしまうのです。温存してしまったら自分を変えることができません。一方で、失敗を自分で引受けすぎて自分を否定してしまっても何にもなりません。野村監督の言うように人というものは失敗することで成長する、もともとは未熟な存在なのです。否定したいほどの自分であっても変えることが可能なのです。自分を変えられると信じることが大切です。 「失敗」と書いて「成長」と読みましょう。このように考えてくると、成功より失敗に魅力を感じませんか? このような発想の転換は、常に気持ちをリセットし、救ってくれるものです。物事は逆から見ると違って見えることは皆さんなら百も承知と思います。心が何かにとらわれてしまうと逆から見る自由が利かなくなってしまうのです。これから皆さんは新卒者として、高度実践者として、高い研究能力を身に付けたものとして、世間が広がり、あらためて多くの世の中の考え方と出会います。その結果、往々にして“常識”、“当たり前”の壁にぶつかります。“当たり前”に拘束されると、ほとんどの当たり前には根拠がないだけに、若い者、弱い者、謙虚な者が身を引くことになります。異なる視点から光を当て“当たり前”に一石を投じることによって進歩や発展が生まれます。これがイノベーションの始まりとなることでしょう。 ご存知の方も多いと思いますが、日本の世界地図は太平洋が真ん中にありますが、欧米の世界地図の真ん中には大西洋があります。看護系の大学は、日本ではすべて4年制ですが、ヨーロッパではほとんどが3年制と聞いています。 こんなことを知っているだけで“当たり前”に縛られた窮屈さから逃れられます。グローバル化というと裏に経済取引とか貿易摩擦とか、難しいことがありますが、皆さんは難しいことは抜きにし、その恩恵だけにあずかって楽しみながら世界を歩き、見識を広めてみてはいかがかと思います。YKKの創業者の吉田忠雄氏は、“大学を出たインテリの悪い癖は、実行する前にできるかできないかを自分の頭で考えてしまう。小さな個人の頭脳で割り切れることは人生の一割もない。後の9割はやってみないとわからない。だからドンドン体当たりしている人が次々と仕事を解決している”と言っています。我々は皆さんに、自分の頭で考えることを強調してきたところですが、“悪い癖を持った大学を出たインテリ”にはなっていただきたくないと思っています。 本学は一般的な大学というイメージからは少し異なる小規模な単科大学です。皆さんにとって、この大学での日々は窮屈さと居心地の良さと両面があったのではないでしょうか。教職員の側からはもちろんですが、皆さんの側からもお互いの顔、そして特徴がよく見えていたことと思います。ある時は、教員からの良かれと思うたくさんの助言や励ましが近すぎてうるさく聞こえ、友達が見つからなくてもここでは探す相手が少ないという寂しさもあったことと思います。 たとえ友人が少なくても、たとえ教員と親しくした経験がなくても、これまで築いてきた友人や教員との距離、そしてそのような関係性での勉強や地域活動、クラブ活動などを通じた皆さんの営みは、大規模校にはない意味を持っていたと思います。 働きアリの2割は働いていないという話があります。2割のアリを取り除くと残ったアリの2割がまた働かなくなり、最初の100匹が10匹になっても同じだというのです。 逆転の発想で考えれば、働かない2割がいるおかげで残りが働くことができ、そのおかげで充実感を味わっていられるとも言えます。人間はアリではありませんが、一人ひとりは性格も違い、モチベーションも違い、働くタイミングと場も異なります。 しかし、集合体としてみると一定のまとまりがあり、一定の仕事をし、その中でそれぞれが重要な存在だったのです。 意味のない存在はないのです。皆さん、今後もそのような仲間を忘れず、失敗と書いて成長と読めなくなった友人を気遣い助けおこし、“当たり前”から抜け出せない友人を海外旅行に誘い、なるべく楽しく朗らかな人生を創って行って頂きたいと思います。 博士前期課程、後期課程の修了生の皆さん、皆さんが時間と知力と神経を使った学位論文作成は、さぞ大変だったことと思いますが、成し遂げた努力と集中力は後々の自信につながります。周囲からの期待に圧倒されることなく己を知り、落ち着いてよく考え、そして母校の図書館も活用してこれからも力を高めて下さい。今後も培った底力を発揮するとともに、本学で初めて取り入れた3P科目での学びを深め、また暑い夏の国際看護での学びを踏み台に、世界へも進出して下さい。 最後になりますが、卒業生、修了生の皆さんは、このかほくという土地の自然とともに勉強しました。本日は皆様の門出に合わせてこの地の冬が戻ってきて、たくましくなれよと言っているようです。この地、この大学をいつまでも忘れず、喜びや悩みを分かちあえる場所と心に刻んでおいてください。 本日の卒業式、修了式で一区切りをつけ、新しいスタートラインにつく皆さんを石川県立看護大学はこれからも応援してゆきます。皆さんが、時には母校を訪ね、語らい、生涯の学習の場として石川県立看護大学を積極的に活用していただけるよう願っています。 この講堂に一同に会した皆様とともに卒業生、修了生の前途を祝して式辞といたします。 学長 石垣 和子