石川県立看護大学

石川県立看護大学

平成30年度入学式式辞(2018年4月4日)

2018年4月4日

 本日石川県立看護大学に入学された83名の皆さん、石川県立看護大学看護学研究科博士前期課程?後期課程に入学された13名の皆さん、ご入学、誠におめでとうございます。本学の教職員とともに心からお祝い申し上げます。あわせて、入学の皆さんを今日まで支えてこられたご家族や関係者の皆さまにもお祝い申し上げます。また、お忙しいところ駆けつけてくださいました谷本石川県知事をはじめ、ご来賓の皆様、そして石川県公立大学法人の皆様、ご臨席を賜り厚く御礼申し上げます。

 この式辞の冒頭にあたり特別な報告が一つあります。それは、看護学研究科に入学された13名のうち5名は、本学に今年度から大学院に開設された助産師養成課程の記念すべき1期生の皆さんであるということです。本学では、このたび石川県の支援を受けてこの課程を開設することができました。看護学部における看護師養成、保健師養成と併せて大学院において助産師養成が実現し、本学は3つの看護職能すべてを養成することができる大学になりました。大変嬉しく思うと同時に、その重責に身が引き締まる思いです。谷本石川県知事及び関係者の皆さまには重ねて厚くお礼申しあげます。

 さて、この大学はご覧のように大変大きく広々と作られています。キャンパスには緑や木々がたくさんあり、遠くには宝達山がそびえ、心が開放されます。ここに通じる里山里海街道は海沿いを走る心踊るドライブウェイです。緑の風が吹く小高い場所にゆったりと建てられたこの学び舎で皆さんはこれから勉強します。西田幾多郎先生という世界的な哲学者を生んだ地でもある地元かほく市は、全国市町村の住みやすさランキングにおいては抜群の高さを誇っており、住み、かつ学ぶにふさわしい場所です。皆さんはこのキャンパスの学究的雰囲気と自然を感じ、景色に癒され、きっと大きく育って下さると期待しています。

 この大学は2000年に誕生し、今年で19年目を迎えます。ここにいらっしゃる多くの皆さんも18才を迎えたところです。皆さんもこの大学もほぼ同じ時に誕生し、この21世紀の初めの時代を別々に過ごしてきましたが、このタイミングでひとつになります。日本の大学はちょうど今、大きな改革の流れの中にあり、本学も例外ではありません。そこで、みなさんに「この大学をともに改革し、これからの21世紀の看護学を切り開こう」と呼びかけたいと思います。昔と違い、いまや入学者全員の皆さんに選挙権があります。皆さんは自分の置かれている環境に対し、その是非について、その政治的判断について、自ら票を投じて参加できるようになったのです。大学の改革にもひとかどの意見を持ち、発言してもなんらおかしなことはありません。

 現在の日本は、少子高齢化による人口減少、膨大な財政赤字、社会保障制度の破綻の可能性など深刻な国家的課題を抱え込んでいます。人々の生活に密着した課題が身の回りにあふれています。そのような挟間で病気になっていく人も決して少なくありません。看護を学ぶ学生が医療体制や社会に目を向け、それに対する意見を持つことは当然なことです。それと同様に学習環境である大学に対する意見を持つことも当然です。大学院で専門分野を深める皆さんにとっても同様のことが言えます。本学は、大学改革に向かって、そのような皆さんとの協働作業で臨みたいと思っています。日本の大学改革は学部教育に注目していますが、その見据える範囲は大学院にも及びます。大学院に入学された皆さんにも同じ協働作業を呼びかけたいと思います。大学改革とは、いわゆる大学の古い体質を改めることです。古い体質の時代には、先生が一方的に講義して終わってしまうスタイルが主流で、学生の学びは、二の次でした。学生はそれなりに適応して自由に学んでいましたが、その延長が、日本の大学生が家で勉強しないこと、本をほとんど読まないことなどとして批判されています。ですから、大学改革に必要なことは、自ら学びたくなるような環境をつくることや、無秩序に教育するのではなく、人材育成像を明示して大学?学生?社会で共有することや、教育体制?教育内容?教育方法を改善することなどが考えられています。この大学でもそれに取り組み、カリキュラムツリーやカリキュラムマップを明示し、学生との対話を重視した授業ができるよう、試行錯誤しているところです。皆さんはそろそろ協働作業とはなんだろうかと、内心不安を覚え始めていることでしょう。それは簡単なことです。決して皆さんの損にはなりません。まずは汗をかいて勉強すること、二つ目は必ずや専門書以外の本を含めた沢山の読書をすること、その上で遠慮せずに対等な気持ちで大学に対する意見を述べることです。

 一つ目の勉強は、待つのではなく、自分で納得するまで汗をかくことが大事です。皆さんの進む看護学という専門分野には受験勉強と違って正解が見つからない類の勉強が山積みであり、調べ、考え、体験することがたくさん含まれます。知識も大事ですが、自分で汗をかくことによって知識を使いこなす知恵となって根付き、素晴らしい看護職に成長します。二つめの読書についても、何を得たか確かめるテストはどこにもありません。読書は、面白かった、読んでよかったと自身で思えることがポイントです。専門分野を越えた幅広い分野の知識や幅広いものの見方の獲得につながり、それは社会が皆さんに期待していることと重なります。しかも読書は1人で隙間時間にいつでもできることです。

 一方、納得するまで汗をかく、読後によかったと思う、などは客観的なスケールはなく、基準はすべて自分基準です。茂木健一郎さんという脳科学者は、「いつもパフォーマンスが高い人の脳を自在に操る習慣」という本の中で、「自分基準の高さが大事」と言っています。皆さんもこの辺で満足しておこうと思う「自分基準」を高め、自分を鍛えていただきたいと思います。汗をかいた勉強と専門外をたくさん含んだ読書で感じ?考え?得たことは、皆さんの器を大きくします。それはいろいろな局面で多岐にわたって呼びさまされ、いろいろな方面で役に立ちます。看護実践人材として、あるいは看護教育研究人材として活躍する場合に大いに役に立つことは当然ですが、大学改革にしっかりとした意見を出していただく際にも大変役に立ちます。そこで対等な気持ちで正直な意見を述べることを呼びかけます。勉強や読書が皆さんの対等な気持ちを支えてくれます。一方、勉強に向けた気持ちが高まらない、読みたい本が見つからないなど、入り口でつまずくこともあるでしょう。それも原因探しをしなくてはいけない大学改革にとって大事な情報です。本学は、学生の立場からの正直な意見、さらには21世紀だけを生きてきた皆さんのフレッシュな意見を求めます。さあ、一緒に協働作業をやりましょう。そのようにして育った皆さんは、先生を越えて21世紀の看護学を切り開く人になってゆきます。

 本学は小さな大学ですが、楽しい事がたくさんあります。海外との交流が盛んでいろいろな国の人に出会う機会があります。また地域に出て行く活動はとても盛んです。地域の住民から喜ばれるタイプの活動から勉強させていただくタイプの活動までさまざまあります。大学時代は多くの皆さんが自分を発見し、個性を意識し、将来を方向付ける、大きな意味を持つ時代となります。楽しいことでアクセントをつけながら元気に個性を磨いてください。社会は新たな看護職の誕生を心待ちにしています。近年はさらに専門看護師などの専門性の高い看護職への期待も高まっています。また、助産師に対しては、幅広い年代の性と生殖に対応でき、遺伝や高齢出産や若年出産の相談にも応じられる今の時代にマッチした助産師への期待も高まっています。ここにおられる皆さんは、それらの期待に応えられる人材となって巣立つべき方々です。大事な卵だと心得て皆さんを支援していきたいと考えています。

 おりしも桜が満開間近です。桜の美しさを愛でる感覚は、その柔らかく華やかな色合いとともに春の暖かい風や、年度替りの気分一新の感覚を伴い、誰の自分基準も同じ高さかもしれません。前途洋々たる皆さんを歓迎するとともに、これからともに活気のある時を刻めるように高めあってゆきましょう。今後の皆さんの健闘を祈って式辞といたします。本日は誠におめでとうございます。

学長 石垣 和子

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