石川県立看護大学 令和元年度卒業式式辞(2020年3月14日) 景色はすっかり春めき、いつもの年と変わりません。しかし、今年はなんという年でしょう! COVID-19の世界的流行の拡大が懸念されるさなかの卒業式となりました。揃って全員におめでとうと伝えたかった、然しそれが叶わぬ卒業式が存在するとは平和な日本においては思ってもいませんでした。そこで、参列できなかった皆さんにも向かって大きな声で最初に叫ぶことで式辞を始めたいと思います。本日卒業を迎える看護学部卒業生82名の皆さん、博士前期課程を修了する15名のみなさん、そして1名の博士後期課程修了生、ご卒業誠におめでとうございます。 谷本知事を始めご来賓のみなさま、ご家族?関係者のみなさまには、例年以上にお忙しいところ、卒業生?修了生のためにご出席下さいまして深く感謝申し上げます。本日の会場への配慮によってすべての教職員の同席はかないませんが、教職員一同、みなさまが晴れの門出の日を迎えられたことをこころから祝福しております。 石川県立看護大学は開学から20年の月日が流れました。学部卒業生は1486名、大学院修了生は150名になりました。それぞれ県内外の医療機関や福祉施設、行政機関、教育機関等で活躍しております。また今年は、大学院博士前期課程に新設された助産師養成課程の第1期の修了生を送り出す年ともなり、今後は助産施設等での活躍も期待されます。保健師?助産師?看護師の三教育育課程を持つ大学として幅広い看護実践の場で活躍している皆さまの姿を拝見できることは本当にうれしく思います。 さて、長い人類の歴史の大半は、感染症との闘いの歴史でした。その中で医療も看護も人々の健康を守る職業として発展してきました。戦いが一段落し、やっと長生きができるようになり、さらなる長生きを目指して生活習慣や生きがいに目が向いています。しかし、SARS、MARS、新型インフルエンザと嫌な予兆は近年頻発し、ここへきて今年は新しいウイルスとどう向き合うかを我々に問いかける年となってしまいました。感染制御の原点とは何だったのか、油断していたことはなんなのか、敵はどんな攻め方をしているのか、今一度立ち戻って看護職としてなすべきことを判断し周囲に発信していかなければならない年となったと思います。日本ばかりでなく世界の全大陸で暮らす人々の生活スタイルの変化や情報機器の即時性?個人性?多様性、そして国と国の社会経済的なつながりは、1年1年不連続的に変化し続け、このスピード感は並大抵ではありません。COVID-19は見事にその隙をついてきています。対象をホリスティックに捉える看護職たるもの、一人一人の対象に精いっぱいの看護を提供しながらも、専門を自ら狭めず、視野の拡大を怠ることなく、一人の人間として考えることをやめず、発言を恥ずかしがらず、少し離れた地点から大局を見れる存在となって人類の健康に貢献していただきたいと思います。 学部生の皆さん、この場に参列している、いないにかかわらず、皆さん一人一人のことを教職員一同今年はことさらいとおしく感じています。晴れの舞台である卒業式の在り方を何度も何度も議論して苦渋の選択をするまでのこの間、一人一人の顔を何度も思い浮かべ気持ちを推し量りました。そして皆さんとはそんなことが過去にもあったように思います。本学の開学20周年を締めくくる皆さんは、もしかすると、教職員と特に強い共感体験を内在する特別の学年だったのかもしれないと思えてきます。教職員一同、本学でしっかり学び終えた個性豊かな一人一人が、本日を節目としてそれぞれの個性に磨きをかけてどんな形で大きくなってゆくのか特別な思いで見つめています。 大学院卒業の皆さん、学位論文を書き上げた集中力と自信、その過程で知らぬうちに身についた知識や考え方の断片が皆さんの中には存在します。これから看護職や教員を続けるうえでどうぞ活かしてください。そして、皆さんは、卒業後も学位論文を世に出すまで、指導教員に食いついて学びを成就させてください。最後に、この中におられる助産師養成課程を学ばれた5名の皆さん、皆さんは本学が初めて開設した博士前期課程助産師養成のための挑戦的カリキュラムに飛び込みました。見事にパイオニアとなりその役を果たし、期待にたがわぬ、いえそれ以上の成果を上げてくださいました。学部卒業から間も置かずこんなに成長できることを示して下さり、今後の学部教育にも反映できる宝をいただきました。頑張りに拍手を送りたいと思います。 さて、この式辞の終わりの時が参りました。今後は、皆さまが母校石川県立看護大学?大学院を訪れ、生涯学習の場として積極的に活用していただきたいと思います。みなさまが新しい息吹を大学に注いでいってほしいと願っています。卒業生?修了生のさらなる成長と発展、ご活躍を願って式辞とさせていただきます。本日は誠におめでとうございます。 令和2年3月14日 石川県公立大学法人 石川県立看護大学学長 石垣和子