石川県立看護大学 令和2年度入学式式辞(2020年4月3日) 本日、桜の花もほころび始め、この里山里海の小高い地に建つ石川県立看護大学にご参集の看護学部入学生80名、看護学研究科博士前期課程13名、後期課程3名の皆さん、ご入学誠におめでとうございます。またこの日を心待ちにされておられたご家族の皆様にも心よりお祝い申し上げます。本日はお忙しい中を駆けつけてくださいました谷本石川県知事を始め、油野かほく市長、法人の宮本理事長のご列席を賜り、感謝申し上げます。 本日はご家族や関係者の皆様、そして本学の教員の一部の出席が、新型コロナウィルス拡大防止に鑑みて叶いませんでしたが、このようなときであるからこそ、これから医療界で働く将来性豊かな皆様や、より高度な看護実践者や教育研究者を目指す志をお持ちの大学院入学生をお迎えできる喜びを一層強く感じております。教職員一同、ご入学を心より歓迎いたします。 本学は開学して20周年を経過し、看護学部入学の皆さんは21回目の入学生になります。多くの先輩たちが石川県立看護大学での学びを実践者としてあるいは教育研究者としてしっかりと発揮しています。これから勉強に出かける病院でもきっと笑顔で皆さんを出迎えることと思います。また看護学研究科に入学された皆さんは、一人ひとり異なる目的意識をもち、それに向かって進む皆さんです。より積極的に学ぶことによって得ることも比例して大きくなります。ぜひ頑張ってください。 さて、看護職は医療界において大変重要な存在であることは誰もが認めるところです。医療機関の評判は、看護職の力によるところも多大です。生き生きと働き、心が安らぐ看護職の振る舞いは、医療機関への信頼にもつながります。そのような存在になるための皆さんの基礎的な学習期間は4年間です。学ぶべき内容は、年々増えており、4年間は長いようでいてあっという間に過ぎますので、油断は禁物です。大学院生の皆様も同様です。 そこで、皆さんの学び方に一つお伝えしたいことがあります。それは、「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」という約150年前のドイツのビスマルクという人の言葉です。きっとどこかで聞いたことがあるでしょう。個々の経験から導き出された判断に比べると、多くの人の経験を幅広く集め、比較検討し、客観的な事実として定着したものから判断した方が間違いは少なくなることを知っておくことの大切さを表しています。具体例を言えば、皆さんがこれから手に入れる教科書や参考図書です。これらには先人たちが明らかにしたことが詰まっています。偏りが矯正され、客観的な視点が示されています。しかし、抽象的な表現の文章を理解することが不得意だと、教科書を読んでも文字は読めるが内容が読めない、という事態になり、興味がうせ、書いてあることが平板に思えて興味がわかなくなりただ苦しいだけの学びになります。 そのような時、愚者と賢者のどちらを選ぶか、思い出してください。愚者ではなく賢者になるんだという気持ちで教科書を読みこんでいただきたいと思います。あなたの中で抽象思考がだんだん育ってきます。人間は自分の経験に照らしながら具体的に物事を理解することは得意です。いわゆる具体思考です。一方で、抽象思考が育つと、大きな視点で考え、物事の本質をとらえることができるようになるというメリットがあります。行き詰ったら、科目の先生やクラスメートと意見交換する等、自分以外の人の考えも取り入れるといいと思います。大学での勉強は、学び方を学ぶという側面がありますので、隅から隅まで一人一人の要求水準に合った様には教えてもらえない場所だと心得てください。教えてもらうのではなく、自分で学ぶのです。大学院生も同様です。 歴史に学ぶことは、もっと大きな意味もあります。他人の経験の集まりである歴史はたくさんの経験が平均化されたものであり、時には成功、失敗という結果も含まれており、教えられることは多大です。長い人類の歴史を知ることから、自然との共存の仕方、疫病との戦い方、宗教の意義や役割、学問が誕生した必然性、ほかにももっともっと教えられます。これらは、より多くのことを理解するための土台となり、人としての教養を高めることもなります。そして人と接することを業とする看護職にとっての資質を高めることに結びつきます。新型コロナウィルス感染拡大に恐怖を感じる今日、「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」という言葉はまさに現在、思い出さねばならない言葉でもあると思います。 つい2~3か月くらい前までは、海外旅行へ思いを馳せるのは当たり前のこと、大学や大学院に進学したら、新しい友人を作り、社会を語り、夢を語り、時には大人を批判し、などを若人だけで、あるいは同じ看護職を経験したものとして気が済むまで議論することなども当たり前のことでした。本学では、学部生と大学院生の交流も期待されています。しかし、しばらくは、授業はもとよりキャンパスライフのかなりのお楽しみの部分まで自制するという重苦しい日々が続きそうです。全国から桜の便りが聞こえ自然はいつもの年と同じように移ろっていきます。本来、人間も自然の一部であることを忘れず、医療職を目指すもの、医療界で働くものとして、せめて大きく目を開けてこれらのことをしっかりと記憶に残し、いつもの学びの日が戻ることを待とうではありませんか。皆様、本日は誠におめでとうございます。 令和2年4月3日 石川県立看護大学 学長 石垣和子